ユリナとレイヤ

家の隣にはおんぼろな物置小屋があって、屋根は雪が積もらないように裏に向かって斜めになっていた。
だから裏に落ちたら雪が山になっていて、雨が降れば雫もその上に垂れるから鍾乳洞の様に、雪山には氷の柱が等間隔で生えている。それがまるで恐竜の背中の様になっていたので、よくその上で遊んでいた。
ユリナとレイヤは姉弟で、少し離れた所のアパートに住んでいた。恐竜の背中は彼等にとっても遊び場の圏内であったので、ある年の冬にそこでたまたま知り合って、初めの内は家の敷地内に不法侵入された不快感があったが、すぐに打ち解けあって、春になっても夏になってもそこを引っ越すまでよく一緒に遊んだ。
私が勉強が嫌で家から逃げたした時、母に追いかけられたときユリナとレイヤも追いかけてきた。最終的に母に捕まって連行されて、遠目に見られて恥ずかしかった。
一度敷物を出してレイヤと裸足で上がって
遊んだとき、足が臭かった。指摘をしたら、お父さんが洗ってくれないから、と言っていた。
近所に生えている野生のマーガレットを摘んで、臭い臭いと投げ合って遊んだ。遊んだ後の道路にはマーガレットが散乱したが、放置して帰った。
知らないマンションの螺旋の非常階段に登って、私はリトルマーメイドに出てくるウツボの双眼鏡で遠くを見た。丸くて白いドームの屋あ根が遠くに見えた。(駐車場にいた中年男性に注意され降りた…)
彼らの家に遊びに行ったのは出会ってから大分後だった。姉と私は何故かその時水筒を持って遊びにいっていた。チラリと、そのおんぼろなアパートの風呂場に、初めて四角柱の湯船を見て、ここでレイヤは父親と風呂にはいるのかと衝撃を受けた。
毛先をブリーチした若い母親が魚などを入れる白いスチロースの皿に敷かれた棉にタツノオトシゴが、ラップで封じられている物を見せてくれた。私は小さくて乾燥しているタツノオトシゴを初めてみた。
水筒でお茶をのみ(コップが蓋状になるヤツ)閉じようとしたら彼らの母親が、拭いてあげる、と言って布巾でコップを拭いてくれた。しかし鼻が敏感だった私は布巾が、そして拭かれたコップが臭い事を黙っていた。
家に帰り母に嗅がせた。
「雑巾で拭かれたんじゃないの?」と母は言った。